※「昭和・平成レトロ?」

校長室に掃除に来てくれる生徒とは毎日何か話をしている。先日は「校長先生は倫理の先生ですよね」、「授業してくださいよ」など楽しく話していた。その際に「先生はどんな授業をしてましたか?」と質問された。考えてみれば、この7年間授業をしていないことを思い出し、同時に役職定年の後に教員として「再び授業ができるのか?」や「ICT活用できるかな?」、「昭和・平成を引きずるだろうから、生徒たちに申し訳ない」等々が頭をよぎった。
とはいえ、生徒の質問には答えねば、生徒たちが生まれた頃に実践していた授業の進め方を話した。今時の生徒にはウケないだろうなと思っていたが、生徒の反応は「そんなやり方あり?」、「授業受けてみたい」等々、昭和・平成レトロをもの珍しく受け止めたようであった。今の時流には合わないのでこの場で具体は説明しないが、生徒たちの「その心」は何であったのか?
本校では一人一台端末の体制が今年度完成し、先生方もICT機器の活用やオンラインを用いる実践に努めている。電子黒板の活用はもちろん、端末を用いた調べ学習や論文指導、フォームによる課題提出等、また長期入院等が必要となった生徒に対してはオンライン授業も状況によって行っている。だが、考えてみれば現在の生徒はデジタルネイティブ世代である。メディアリテラシーなど学校で教え学ぶことはまだまだあるが、生徒たちはICT活用の効率の良さはすでに体感、当たり前のこととして感じ取っている。
私の過去の授業になぜ興味を示したのか?アナログのリアルさや空気感を生徒は求めているのではないだろうか?私はNIE(新聞を教育に)実践をこの30年研究している。数年前までは「紙か、デジタルか?」という議論も多かったが、もはや「紙とデジタルのバランスをどうとっていくか」にシフトしている。紙にはその手触り・情報の一覧性・じっくり読み返せる・予期せぬニュースに出会えるなどの特性がある。デジタルには情報検索や新聞製作の効率化、リポート作成の再編集の簡便化などの特性がある。教師自身が紙とデジタル双方の特徴を理解し、生徒にまずは体験させる場面が提供され、最終的には目的に応じて生徒自身が選べることが理想であろう。私自身はインプットの面では多様な話題やその信頼性から紙、アウトプットでは情報の再利用や再編集がしやすいことからデジタル利用が効果的と考える。
とすれば、今後の学校の授業を考えていく際には「デジタルとアナログ」のバランスをいかに保っていくかが重要になってくるのでは……。最初から最後まで全てデジタルで完結することだけが、ICT教育とは思えない。端末の長時間利用による目や脳への影響についてのエビデンスも明らかとなってきている状況も含め、適切な時間・場所でアナログも用い、その効用をいかし、いかに生徒たちの意欲・関心を高めていく「ハイブリッド授業」を構築するか、教師の専門性が試される新たなステージ到来である。黒板から響くチョークの音やタイピングではなく手書きの付箋作成、実験や観察といった体験など私たちの五感に訴えかけることの大切さも再度確認しておきたいと感じた。